スケッチの技術とデザインへのユニークなアプローチ:LIXILグローバルデザイン
LIXILの社内デザインチームであるLIXIL グローバルデザインは、創造性、協同による作業、そして文化的多様性を尊重し、多面的なスキルセットとデザインへのユニークなアプローチで最高の作品を生み出しており、550を超える国際的なデザイン賞を受賞しています。
今回は、所属デザイナーであるベギュム・トムルクさんと冨岡陽一郎さんにお話を伺いました。
ご自身とグローバルデザインチームについて、簡単にご紹介ください。
ベギュムさん:ベギュム・トムルックです。LIXIL Global Design EMENAでリードインダストリアルデザイナーをしています。イスタンブール生まれで、2015年からこのデザインチームの一員です。
LIXIL グローバルデザインでは、トレンドやインサイトを消費者の体験やLIXILブランドの価値に変換しています。アメリカンスタンダード、GROHE、INAXなどのグローバルなブランドポートフォリオで、日々数億人以上に使われている商品を通じて、比類のない体験を提供しています。社内デザインチームである私たちは会社の「クリエイティブな腕」であり、すべての弊社ブランドにおいて消費者の声を代弁しています。
冨岡さん:LIXILグローバルデザインでクリエイティブデザインディレクターをしている冨岡洋一郎です(みんなはトミと呼んでいます)。プロダクトデザインからブランドのグラフィック、UIデザイン、空間デザイン、展示会やショールームデザインなど、様々なクリエイティブディレクションを担当しています。
LIXILグローバルデザインでは、常にチームで仕事をしています。我々はクリエイティビティ、コラボレーション、多様性を尊重し、さまざまな分野を横断して活動しています。東京、シンガポール、ニューヨーク、ロンドン、デュッセルドルフなど、世界で最もコスモポリタンで文化的に多様な都市に拠点を置くこのチームは、社内の多様なスキルセットを基に、新しい刺激的なデザインを創造しています。
あなたのチームは、革新的なデザインと優れた機能性を備えた世界的なベストセラー製品を生み出し、550を超えるグローバルデザイン賞を受賞しています。これらの優れた製品がどのように開発されたのか、また、プロダクトデザインにおいて重要なことは何なのか、お聞かせいただけますか?
ベギュムさん:私たちはデザイナーとして、新しい製品を世に送り出すという大きな責任を負っています。新しい製品をデザインする際には、トレンドや消費者のニーズ、そして生活の中でのユーザー体験に目を向けます。世の中は目まぐるしく変化していますから、製品は最新のトレンドから重要なメッセージを伝える必要があります。そのためには、製品の存在に「正当な理由」があり、ユーザーに真の利益をもたらすものでなければなりません。例えば、製品の寿命やサステナビリティなどは、新しい製品をデザインする際には常に重要な意味を持ちます。
冨岡さん:私たちの最終的なゴールは、世界中のすべての人に、より良い住まいを実現してもらうことです。目標達成のためには、消費者を深くリサーチし、理解することが必要です。そのため、すべてのデザインプロセスは、消費者中心の思考と、私たちがプレサーチと呼ぶ独自のアプローチから始まります。私たちのチームには、ユーザーアンケートを通じて消費者のインサイトを見出して、製品価値を設定するリサーチチームが含まれています。デザイナーは、アイデア出しや企画立案の全プロセスに携わります。仮説が可視化された時点で、スケッチやデザインの作成に取りかかります。
では、コピックはどのようにデザインの現場で使われているのでしょうか?
ベギュムさん:LIXILグローバルデザインにおいて、スケッチは重要なスキルです。デザインの過程ではアナログでもデジタルでもスケッチを描くのですが、これら2種類のスケッチを「アイデアスケッチ」と「プレゼンテーションスケッチ」に区別しています。どちらにも存在意義があるわけですが、その用途が異なるので比較することはできません。
まず1つ目のテクニックとして、アイデアスケッチについてお話します。デザイナーなら、誰でもデザインする過程でアイデアスケッチを描くと思います。CADでの3Dコンセプト構築前の、事前検討のために手早く描かれるスケッチ、というケースがほとんどでしょう。私の場合、アイデア出しは紙の上から始まります。愛すべきアイデアもあれば、ゴミ箱行きになるアイデアもありますけどね。
アイデアが浮かんだら、コピックのクールグレーを使い、軽いペンストロークで微妙な陰影をつけていきます。最初のレイヤーでは、コピックワイドマーカーを自由に使っていきます。あくまでごく初期段階のアイデアスケッチなので、過剰に描き込む必要はなく、シンプルに3D的な外観と素材のディテールを表現することに集中することにしています。
2つ目のプレゼンテーションスケッチでは、ハイクオリティなデザイン画を作成して完璧に近づけるのですが、アイデアスケッチよりはるかに精密で詳細な作業が求められ、通常かなりの時間を要します。こちらは主にデザインアイデアやストーリーを社内外に紹介するために使用されます。
最新のGROHEデザインスケッチでは、コピックワイドマーカーのストロークと、コピックAir Brushing Systemによるエアブラシのディテールを盛り込みました。ワイドマーカーは、デザインスケッチのベースとして使用すると、独特なレイヤーの深みを与えてくれます。この方法だと、なかなか真似できないような思いがけない結果を生み出すので、とても気に入っています。こういった細かいテクニックをテクスチャーのある背景と一緒に使うことで、立体感のあるルックを与えてくれるのです。
冨岡さん:そうですね、コピックの製品は本当にいろいろな用途で使っています。例えば、ワークショップでスケッチするときにも、コピックがあればブランドカラーのINAXブルーやLIXILオレンジをさっとアクセントとして加えることができます。また、リアルタイムで複数の人と何か共有したいときも、すぐに彩色できるよう、常にコピックマーカーをそばに置いています。
コピックマーカーを使い始めたのはいつでしょうか。また特にコピックを選んだ理由は何ですか?
ベギュムさん:私も大学1年生のときに使いはじめました。インダストリアルデザインについて学んだ最初の数年間は、アナログでのスケッチと視覚化が必須だったのです。可能な限り最高のツールで自分のスキルを伸ばしたいと思い、ブランドと製品の品質を信頼していたコピックを選びました。
冨岡さん:大学1年のとき、初めてレンダリングの授業を受講したのですが、コピックは指定画材だったのです。それ以来、スケッチやレンダリングにずっとコピックを使い続けています。
昨今、インダストリアルデザインにおいてデジタルツールやソフトウェアがよく使われていますが、コピックなどの伝統的な画材は、いまデザインのプロセスでどのように使われているのでしょうか?
ベギュムさん:私たちは、デザインプロセスが変化していることを認識しています。かつては、アナログなスケッチだけが、アイデアを視覚化する唯一の方法でした。しかし現在では、デザイナーは自分の思考を視覚的に説明するためにさまざまなツールを利用できるようになりました。デザインプロセスを容易にし、スピードアップさせることを目標として、新しい技術やソフトウェアが開発されています。しかしアナログスケッチはイメージをすばやく具現化し、発展させ、アイデアを伝えることができるので、今でも非常に重要な役割を担っていると思います。
冨岡さん:特にワークショップなどリアルタイムでのコミュニケーションで、複数のイメージを数人で同時に作成する場合ですね。シンプルに、とても実用的で便利です。
プロダクトデザイナーやインダストリアルデザイナーを目指す人たちにメッセージをお願いします。
ベギュムさん:私たちデザイナーにとって、消費者を中心とした思考と、目的を定めたアプローチからすべては始まるのです。私たちは長年にわたって変化してきたデザインプロセスを追いかけています。しかし、コピックで手早く描かれた初期段階のスケッチを同僚たちやチームと共有するアイデア出しの部分は、デザインプロセスの中で最も効果的かつ影響力のある部分として残りつづけています。
スケッチできる、というスキルセットは、あなたのキャリアを別のレベルに引き上げることができます。 それと、スケッチが伝える感情的な側面も忘れてはなりません。スケッチは、必ずしも合理的なものではないのです。実のところ、感情的で、芸術的で、クールで、活気に満ちたもので、私たちはそれを見て純粋に楽しんでいるんですよ。
冨岡さん:どの製品も、その背景にあるストーリーや目的がきちんとあった上でデザインされるべきです。誰が、どこで、どのような目的で使うのかを考えることが大切なのです。そのためには、実際に製品が使われる現場に出向いて、顧客の行動を観察し、インタビューを行うなど、リサーチすることが重要です。その上でストーリーを展開して、走り書きやスケッチからデザインを始めることができるのです。
LIXIL Global DesignのInstagramをフォローして、価値あるデザインコンテンツをお楽しみください。
https://www.instagram.com/lixilglobaldesign/