— 長くコピックをお使いいただいているということで、本日はインタビューをお受けいただきありがとうございます。コピックを使い始めたきっかけを教えてください。
日産デザインに入社するまで使用したことがなかったのですが、カーデザインをするにあたって自然と使用するようになりました。
— コピックの良さはどこですか?
アルコールマーカーならではのにじみ感と色あいはもちろん、コピックの良さは偶然できる線や重なりにあると思います。わざと余白を残したり、実際に手で描くからこそできることだと思います。デジタル作画だと偶然ではなく作為的なものになりますが、人間の手で描くことって、偶然ができるのでいいですよね。それが良いアクセントになったり、"ハッピーアクシデント"が生まれると考えています。
— 山下先生はコピッククラシックのブロードニブをよく使われますね。
少しいい加減といいますか、ファジーな線が描けるので好きです。ブロードを使っている理由はそこかもしれないです。細い方(ファインニブ)だと神経を使って細かくデザインを作ることになるので苦手です。ですのでブロードだけで大胆に描いて、微調整は色鉛筆などで行います。
数々の賞を受賞した、代表作のフェアレディー Z32
— 今まで数多くのデザインをされてきましたが、カーデザインのヒントはどこから得るのですか。
一概に言いにくいのですが、デザイントレンドは重要だと思います。クルマに限らず、家電、建築、ファッションなど様々なトレンドです。次に、シンプル/オリジナリティ/先進性など、先人の残したキーワード。あとは、コミックやムービーなどから得ることもあります。
— カーデザインの作画において大切にされているポイントはありますか?
私の場合、カーデザインは線の一本一本がとても重要だと思っています。そのため、常に勢いのある線を描く様に心がけています。時には座らずに立ってスケッチする事も、現役時代はありました。立って描くのは、全体を見渡しながら大きく線を書くことができ、フォルムをしっかり確認できると言う利点があります。そして、ディティールから始めるのではなく、フォルム(塊)を創り出すことから始める様にしています。私はフォルムの新しさが次の世界観を創り出すのだと信じています。
山下先生が大学の授業でまず初めに教えるのは、ものの形の捉え方、質感の表現。そして「速く見える(スピード感がある)デザイン」も描いて学ばせるそう。
— ガラスの光沢感や、車体の重厚感の表現方法を教えてください。
光沢感はハイコントラストで表現します。ガラスの場合には、透明感も重要ですので、色味を濁らせず清々しく表現します。 重量感は、色味が大切だと言えます。暗めの色が表現しやすいと思います。色だけではなく、地面(グランド)との距離感は大事です。つまり環境とのマッチングと言うのでしょうか?
— 山下先生の授業内容、また授業の中で大切にされていることを教えてください。
スタイリングする行為と考える行為の双方を意識する事を「デザインする事」として教えています。また、言われたものを決められた時間内にデザインとして仕上げる能力は大事ですが、それだけだとこれからのデザイナーには十分でなく、広い意味で「デザイン」を捉える能力がデザイナーには求められていると考えます。例えば、社会に対してデザインした製品が与える影響を配慮したり、貢献度を推し量ったりすることの様な自分が与える影響力を常に考慮して欲しいとおもいます。 社内においては、常に製品の全体を俯瞰(ふかん)できるような心構えと広い視野を持ち、開発全体に影響を及ぼすことのできる素養を持って欲しいと思っています。そして将来デザインで社会に貢献できる一流のデザイナーになって欲しいと思います。もちろんですが、アイデアの出し方や表現力があっての話ですから、スキルを上げることには注力して授業をしています。
Car Design Academy、首都大学東京、女子美術大学などの多くの場で若い世代に講義を行う
— これからカーデザイナーを目指す人たちに向けてメッセージをください。
先ほどお答えしたように、デザイナーが果たす役割が広がってきた現代において、単に絵が上手いだけでは十分ではない事を理解して、幅広い知識と経験を身に付ける事をお勧めします。また、自動車業界は今「100年に一度の大変革期」を迎えています。これから自動車のデザインを志す方々は、とても恵まれた時代の入り口にいる事を意識して、素晴らしい活躍をされる事を期待しています。デザイン力だけでなく、英語力、コミュニケーション力も高めてください。頑張ってください!羨ましいです!!